受け継いでゆくもの ④

2015年に、マレーシアの伝統薬作りを学んだ時のことを綴っています。

過去のシリーズはこちらです。

受け継いでゆくもの ①
受け継いでゆくもの ②
受け継いでゆくもの ③

 

 

薬作りを習いたい、と申し出てから半年ほど経ったある日
「ハリラヤ(ラマダン明け休暇)はアロースターに帰るから、薬を作りにおいで。」と
ポン叔母から連絡があった。
私は喜び勇んで高速バスのチケットを買い
一緒に行きたいという娘と二人で、アロースターに向かった。
事前に用意した材料のハーブをバッグに詰めて
2泊3日の母娘二人旅の始まりだ。

 

アロースターの家に着くと、ポン叔母と妹のチュー叔母が温かく迎えてくれた。
到着した日は食事をして終了。
翌日から早速、薬作りの実践である。

 

ミニャッ アンギンの主な材料は
1.10種類以上のハーブ、スパイス(調合済みのものが市販されている)
2.叔母独自のローカルハーブ(乾燥させたもの)
3.生姜
4.オイル

2は今回用意出来なかったので、1と3で作ることになった。
工程の重要なポイントは全て録画し、後で見直せるようにした。

中東、インド、東南アジアの民間に伝わる伝統薬は
ハーブやスパイスをオイルと共に加熱し、薬効成分をオイルに移したものが多い。
インドのアーユルヴェーダに使われるオイルや
マレーシアのミニャッ アンギンもその一種。

 

 

ポン叔母の家には昔ながらの七輪があり、炭の火力でミニャッ アンギンを作る。
炭の火力が一番適しているのだそうだ。

調合済みのハーブをふるいにかけ、細かい粉にし
生姜を大量に刻み、オイルと共に加熱していく。
火力と加熱の仕方がポイントだ。

 

充分に成分がオイルに移るように、気長に混ぜる作業が続く。
時々娘に手伝ってもらいながら、ひたすら混ぜていると
やがてハーブが揚げかす状になってくる。
「こういう風になれば出来上がり。あとは冷まして漉せばいい。」

 

 

薬が冷めるのを待つ間
ポン叔母に薬作りを始めた祖母の事を聞いてみた。
薬作りを始めたのは、ポン叔母の母、夫の祖母に当たる女性。
祖母が昔、誰かから薬作りを習って作り始めたそうだ。

 

祖母は薬作りの才能があったのか、器用な女性だったのか
色々な民間薬を作り、どれも人気があったという。
特に秀でていたのは、産婦の産後ケアで
その腕を買われて、ケダー州のスルタンの王妃(スルタナ)がご出産された際
産後ケアのために呼ばれて王宮へ通っていたほどだ。
もちろん、祖母が作ったミニャッ アンギンを持って。
祖母はそれを、大変誇りにしていたという。

 

祖母には3人の娘がいた。
長女が私の夫の母、次女がポン叔母、三女がチュー叔母。
3人の娘のうち、祖母の腕を継いだのはポン叔母だけだった。
「ママ(夫の母)やチューは、どうしてやらなかったの?」と聞くと、
「あの人達はマラス(怠け者)だから。」という答え。
またマラスだ。
薬作りは作業が多く、面倒だからやりたがらなかったそうなのだ。

 

ともあれ、立派に祖母の薬作りを継いだポン叔母は
その腕を生かして、薬作り一本で稼ぎ、結婚はしなかった。
看護師として働いていた末のチュー叔母も姉同様結婚せず、
姉妹で助け合いながらポン叔母の養女を育て上げた。

叔母二人がなぜ結婚しなかったのか、それは分からない。
「Jodoh(ジョドー、縁)が無かったのさ。」と叔母は言うけれど
夫の母が14歳で10歳年上の義父と結婚したことを考えると
当時の田舎としては、極めて珍しい事であっただろう。

 

ポン叔母の話を聞きながら、彼女が母親をとても誇りに思い
自分の薬作りの腕にも、誇りを持っていることがヒシヒシと感じられた。
「薬作りはね、お金儲けのためにしちゃいけないんだよ。
お金は大事さ。でもそれが一番じゃない。
薬を作ることは、アッラーがお導き下さったんだから
ちゃんとした物を作らなきゃ。
だから、他人には絶対教えなかったのさ。」

 

出来上がった薬を瓶に詰め、最後に叔母は、ある「おまじない」を教えてくれた。
「いいかい、薬が出来たら、こうするんだよ。
(おまじないの動作を見せて)
それから、アッラーにドゥアー(お祈り)をすること。
無事、薬が出来ました。ありがとうございます。
この薬が、使う人の役に立ちますように。ってね。」

 

それ以来、私は一人で薬を作る時にも必ず、このおまじないを行っている。
おまじないなんてバカらしい。と思うかもしれない。
だがこのおまじないには、薬を使う人の健康と幸せへの祈りが込められている。
祖母とポン叔母がずっとそうしてきたもの。
だから私は、動作の一つたりとも、言葉の一言すら
決して疎かにしてはならないのだ。

 

 

翌日、娘と私はクアラルンプールへ戻った。
ポン叔母と共に作った薬とお土産をバッグに詰め
叔母たちの温かい気持ちと家族の歴史を胸に刻んで。

 

ー続く

 

 

マレーシア クアラルンプールより愛を込めて
Nana

 

 

 

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